デンタルインプラント wikipedia|無料辞書
デンタルインプラントとは、歯の欠損を歯の機能を代用させる目的で顎骨に埋め込む人工的な物質。現在では
チタンが多く使われる。
◆ 概要
英語のdental-implantからの輸入語で
デンタルインプラントと呼ばれ、単に
インプラントと略称されることが多い。その他、人工歯根、口腔インプラント、歯科インプラントなどの呼称がある。インプラント体を手術的に顎骨に植えて、創治癒を待った後にその上に人工歯冠・上部構造をつける一連の治療を、
インプラント治療と呼び、
ブリッジや
有床義歯と違って、天然歯の状態により近い機能・形態の回復が得られ、また周囲の歯を削ったり、それらに負担をかける必要がないため、インプラント治療を受ける人は近年、激増している。
現在、実用に供されている
人工臓器の中では、最も完成度の高いものであると考えられる。
インプラント治療にはしっかりした顎骨が必要なため、
歯周病などで
歯槽骨が破壊されている人は、顎骨のほかの部分や、腰などから骨を移植して、人工歯根を埋め込む土台となる骨を構築する手術を必要とする場合がある。
◆ 歴史
失った歯を人工材料で補う試みは古くから行われてきた。上顎骨に鉄製のインプラントが埋まった紀元
2世紀から
3世紀の古代ローマ時代の人骨が発見されており、このことはすでにインプラント治療が試みられていたことを示している。
5世紀の
マヤ文明の遺跡で発掘された下顎骨には天然の抜去歯2本と貝でできたインプラントが埋まっており、歯石がついている事からかなり長期に機能した事を示しており世界で最初の実用に耐えたインプラントだと考えられている。
インプラントが臨床に登場したのは
1910年代。1910年代にはバスケット型、1930年代にはスクリュー型、1940年代にはらせん型のインプラントが考案された。しかし予後は著しく悪かった。インプラント治療最大のブレークスルーと言われるのが
1952年スウェーデンの
ルンド大学で研究を行っていた
ペル・イングヴァール・ブローネマルク教授によって、チタンが骨と結合すること(
オッセオインテグレーション)が発見され、チタンがインプラントに応用されるようになった事。これによりしっかりと骨に結合するインプラント治療が可能になった。動物実験を経て、
1962年から人間に本格的にインプラント治療が行われるようになった。ただ、ブローネマルク教授が歯科医師ではなかった事などがあり、批判的な立場の歯科医師も多く普及には至らなかった。大きなターニングポイントとなったのは
1982年のトロント会議。そこで予後15年の症例が報告され、一大センセーショナルを巻き起こし、北米を中心に普及が始まった。インプラントの形態は大きく分けてブレードタイプと呼ばれる板状のものとルートフォームと呼ばれる歯根様のタイプがあるがルートフォームが主流になり現在に至る。ルートフォームは当初はシリンダータイプと呼ばれる滑らかな表面だったが、ネジ状の形態の方が初期固定に有利とわかり、現在のインプラントにはネジ山(スレッド)がつくタイプになっている。また
1991年に表面が機械研磨(いわゆる削りだしの状態)より強酸で表面処理をした方が骨との結合がより強くなるという論文が発表され、それ以降各社表面をブラストや強酸により処理しラフサーフェス(微小粗雑構造)を作るようになり表面性状の良さを競っている。現在さらに表面をフッ素コーティングをする事により骨伝導と石灰化が惹起され、治癒が早まると注目されている。日本ではまだ認可されていないが数年のうちに日本でもフッ素コーディングタイプのインプラントが登場する事が予想される。このようなインプラントの改良により予後は日々向上している。また適応も骨再生誘導療法などが開発され、歯槽骨の再生により拡大している。
◆ 構造
インプラントは顎骨に埋入されている本体のフィクスチャー(インプラント体)とフィクスチャーに接続され支台となるアバットメント、アバットメントに装着する上部構造からなる。
◆ 治療計画方法の分類
インプラントの治療計画作成の方法には補綴主導型(トップダウントリートメント)と外科主導型の2種類がある。
・補綴主導型(トップダウントリートメント)は模型上でモックアップを作り機能的、審美的に最も適した最終補綴物(上部構造)の位置を決め、それに基づきフィクスチャーの埋入位置の決定、それにあたって歯槽骨、歯肉を望ましい条件に整えるという治療計画の立て方である。
・外科主導型は歯槽骨の状況等を考慮し、もっとも有利な位置にフィクスチャーを埋入し最終補綴物の位置はフィクスチャーの埋入位置により制限される。フィクスチャーありきの治療計画の立て方である。
インプラント手術の目的はフィクスチャーの埋入ではなく、機能、審美の両面の改善であるため、理想的にはトップダウントリートメントが望ましい。しかしトップダウントリートメントでは骨量として必ずしもベストではない位置にフィクスチャーを埋入する事となるためGBRが必要となる事が多くなり人工骨などの充填材の質に依存する事となる。一時期はトップダウントリートメントでの治療計画が流行したが人工骨の吸収による不良予後のケースも散見されたため、現在は外科主導型でフィクスチャーをしっかりと埋入するという事に重きをおくという考えに揺り戻しがおこっている状況である。ただ、トップダウントリートメントが理想であるという事実は変わりなくより吸収の少ない精度の高い人工骨等の充填材の開発により将来的にはトップダウントリートメントが主流になると考えられる。
◆ 術式
インプラントの術式は1回法と2回法の2つがある。近年はインプラントの改良により初期固定が格段に良くなったため、フィクスチャーの定着率は1回法と2回法で有意差はほとんどなくなってきている。よりシビアなケースの場合、またGBR等の骨増生手術を同時に行う場合は2回法が選択され、その他の場合には1回法が選択される。1回法の場合は即日
仮歯を入れる即時加重を行えるメリットもある。ただ、通常小規模な診療所では導入しているインプラントの種類は1ないし2種類であるため、導入しているインプラントの種類で術式が決まる場合も多い。
◇1回法の術式
#インプラント埋入予定部の歯肉弁を剥離する。
#骨をドリリングしてフィクスチャーを埋入。
#アバットメントもしくは高さのないヒーリングアバットメントをフィクスチャーに連結。(場合により仮歯を入れる)
#オッセオインテグレーション(インプラントが骨にしっかりと固定された状態)した時点でアバットメント(ヒーリングアバットメントを入れている場合はアバットメントに交換)に最終補綴物を被せる。
◇2回法の術式
#インプラント埋入予定部の歯肉弁を剥離する。
#骨をドリリングしてフィクスチャーを埋入。
#フィクスチャーのネジ穴の部分をカバースクリューで蓋をして、剥離した歯肉を閉じる。
#オッセオインテグレーション(インプラントが骨としっかりと固定された状態)した時点で2次手術を行う。
#2次手術では歯肉を再度剥離しカバースクリューを外しヒーリングアバットメントと交換し歯肉を閉じる。
#2次手術後1ヶ月程度あけ歯肉の形が整った段階でヒーリングアバットメントをアバットメントと交換し、最終補綴物を被せる。
◆ 補助手術
上顎洞底に近い、下顎神経に近接している、骨量が垂直的または水平的に少ない等の場合にそれを解決するために補助手術が行われる
・
GBR - メンブレンを用い骨誘導のためのスペースを確保する。術前にあらかじめ行う場合と術中に行う場合がある。メンブレンの中に人工骨や術中集めた自家骨を入れる場合も多い。
・リッジエクスパンジョン(スプリットクレスト) - 骨の幅が足りない場合行う手術。歯槽骨頂にくさびのような器具をいれ幅を押し広げる。
・下顎神経移動術(下歯槽神経側方移動術) - 下顎神経に近接している場合神経そのものを移動(多くは側方)させるもの。麻痺が一時的には必ず出るため日本ではほとんど行われない。
◆ 咬合・補綴
天然歯の場合は歯根と骨の間に歯根膜があるため咬合した際30μm沈下する。しかしインプラントの場合はフィクスチャー(インプラント体)が骨にダイレクトに固定されているため、沈下量は5μmである。そのため、天然歯と同等の咬合を与えるとインプラントにオーバーロード(過重負担)がかかり補綴物の破損、インプラントのロスト等の問題が起こる。そのためインプラントの咬合調整は歯根膜がない事を考慮し天然歯より25μm低く調整する。
ナソロジー的な咬合の考え方として前歯は臼歯が完全に沈下した時点で初めて前歯部が接触する咬合の付与が推奨されている。臼歯部の歯根膜による沈下量は前述の通り30μmであるため上下歯で合計60μmとなるが、前歯部にも当然歯根膜があるため補正され、天然歯の場合は臼歯が軽く咬み合う際に前歯部は30μm離開している事が望ましい。一方でインプラントの場合は歯根膜がないため前歯部の調整の際は60μmの離開量が必要となる。
・デンタルインプラント page1
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